2012年03月27日

インタビュー: 「核」否定の思想に立つ

新教出版社編集部より出版された『原発とキリスト教 わたしたちはこう考える』に執筆された鈴木玲子さんに、「『核』否定の思想に立つ」ということ、また、これからの脱原発社会に向けて、お話を伺いました。

1.「『核』 否定の思想に立つ」について詳しく教えてください。

 日本YWCAは1970年、「『核』否定の思想に立つ」を主題に掲げ、全国運動の中心として、原発反対の運動をはじめました。原発の“平和利用”が声高に唱えられていた頃に、原発の危険性に気づいて反対に取り組んだ団体としては非常に早いと言えます。
 カッコつきの「核」は、核を頂点とした現代文明全体のあり方、具体的には、相手を傷つけることにおかまいなしに、自分がもっと強く、もっと豊かに、もっと便利にという生き方を表しています。すなわち、YWCAの「『核』否定の思想に立つ」とは、単に核兵器や原発に反対するにとどまらず、現代社会の生き方を問い直し、命の大切さに立ち戻ることです。
 70代以降、全国のYWCAでは各地で勉強会が開かれ、それぞれの置かれた場所で、「核」否定に取り組むようになりました。また、核の恐ろしさを学ぶ「ひろしまを考える旅」が71年から現在まで続いています。
 特に福島YWCAでは、原発のおひざもとにありながら、反原発と反天皇制を掲げ、先駆的な活動が長年続けられています。

2.自国で大きな事故を起こしたにも拘らず、原発を輸出する政府の姿勢をどう思いますか?

 これだけ危険なものであるのに、原発が維持されているのは、原発産業が儲かるからです。輸出面でも、他の製造業が韓国や中国に追い上げられ不振なため、原発輸出は国益に欠かせないと財界はみなしています。
 第2次世界大戦のとき、日本はアジアに対し、軍服を着て軍事侵略を行いました。戦後は、スーツを着て経済侵略を行っています。これは戦中と同様、自国の利益のためには、他国を犠牲にしてもいいという差別意識があるからこそ、成り立っています。

3.キリスト者として原発事故をどう感じていますか?

 アジアに対してだけでなく、国内においても、原発は格差、差別の上に成り立っています。原発は産業がない貧しい地域に作られており、その原発の電気で、都市に住む人が快適な生活を送っています。沖縄などへの軍事基地押し付けと同様に、構造的暴力です。
 真理として、キリスト教であろうとなかろうと、自らの豊かさや快適さのために、他人を犠牲にすること、他人の命を危険にさらして、自分の命を守るということは、許されることではありません。



4.人間は高等な知能を持つ生き物であるはずなのに、最終処理方法がわからないものを、なぜ作り続けるのでしょうか?

 2011年7月に、日本政府によるモンゴル国内への核廃棄物処理場の建設の計画が、モンゴル政府に断られた事実が判明しました。核廃棄物の扱いは非常に難しく、人類文明の寿命を超える半減期を持つものもあります。たとえどんなに安全に原発を稼働させても、その核廃棄物は出続けます。
 「知」は、お金と権力によって、くずれてしまいます。高度経済成長期のときに起こった公害では、企業が地元に大きな影響力をもっており、健康被害が明らかになっても、なかなか声をあげられず、人の命よりも企業の利益が優先された歴史があります。
公害は、まだ当時、様々な化学製品が人体にどういう影響を及ぼすかわかっていない時代に起こりました。しかし、放射能の影響は、被爆国としてわかっていることです。確信犯として、原発を作り続け、核廃棄物を作り続けています。



5.これまでの反核運動に足りなかったものは何だと思いますか?

 全国のYWCAで、『核』否定の思想に立ち、運動が進められましたが、その進め方は様々で多岐にわたり、一言では説明できない面がありました。さらに、まだまだ世論では原発擁護派が多数の逆風の中で、運動は非常に困難でした。
 またYWCAの中においては、とても熱心に取り組み、勉強を行ってきましたが、外に向けてのアクションやアピールが弱かったと感じています。



6.脱原発社会に向けて、具体的に呼びかけたい行動は?

 もうじき、日本にある54基の原発のすべてが定期点検に入り、稼働している原発は0基*となります。それらを再稼働させないことがとても大切です。原発がなくても大丈夫であること、原発は必要ではないことをアピールし、決して運転を再開させないことです。
 2011年の3月の計画停電を経験し、そんなに電気を使わなくても大丈夫だということがわかりました。節電のために、契約のアンペアを下げるも有効的です。以前YWCAが作った、電力使用量を記録する「環境家計簿」はとても好評でした。
 また、これからはライフスタイルだけでなく、社会の変革が必要です。代替エネルギーへお金をまわしたり、送電分離を行ったり、これまでとは違うやり方にシフトしていくことです。
 3・11をターニングポイントとして、これからの世界のあり方について、立ち止まって考えるべきときです。あらゆる差別のない、一人ひとりの命を大切にする社会をつくるために。
 まだ間に合います。

*2012年3月1日現在で、稼働中の原発は2基。2012年5月には、残りの2基も定期点検に入り、すべて止まる予定。

インタビュー:2011年12月27日(火)


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Posted by 横浜YWCA at 10:56 │脱原発